2021-06-24 15:50:38
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さて。日曜日である。早朝のジョギングから始まり、近所の道場で汗を流し、戻ると各新聞紙の隅々迄、目を通した後、昼食を取りつつ、署からのメールを確認。そして着替えると、母親から頼まれた事に対応する為、ミョウガ坂へと向かった警部補。
『チクチク部』が前日、お休みだった彼女。一部を除いた署員達が、絆創膏まみれなのはどうか、という話が出たからだ。不器用にも程があるという事なのだ。精神鍛錬に相応しいのに。と文句のひとつも言いたかったのだが。
そう云う訳で絆創膏から開放されてる、今の左の指先。
気持ちよく晴れ渡った空の下、道場に通う小学生から聞き出した
『ミョウガ坂道を自転車で乗って下ってると、三毛猫を頭に乗っけた、赤い原チャリオトコが、ペンライトを鬼の角の様におデコに巻かれた赤いバンダナに突き刺し、スピード違反はゆるしまへんでぇ!と叫びながら追いかけてくるはなし』
の分析をしながら歩いている。
すっかり尾ひれが付き成長し、立派な都市伝説と化してる勇次郎。
……、火のない所には煙は立たない。挙動不審な行動が、普段から人の目についているのだろうか。スピード違反は許さない、これはいい。とても良い。しかし!猫を被るとは!ヘルメットはどうした!ヘルメットは!違反だな。とっ捕まえなければ!徒然、考えながらミョウガ坂にたどり着く。
クッと曲がり、タッと、ダラダラと長い道を登り始めた。
プランターの猫草が、みずみずしく青葉が伸びている。
「おじさん!それ返して!」
自転車を道路傍に停め、女の子がしゃがみ込む男に手を差し出している。
「落としたの私なの!返してよ!大人なのに取ったらダメッ」
並ぶ女の子も同じく赤い原付バイクを停めた側にしゃがむ男に、ズイッと手を差し出している。
「ミルイがリクエスト募集中で当選して、作ってもらえたとっときなんやで!それ!」
「昨日届いたの、返してよ」
坂の勾配が少しばかり急になってきた時、道路上で何やら揉めている、取り合わせがおかしな一団に、出くわした警部補。
「……、たまこぉぉ!これ!たまこ。こんな風に作りたかったのに、のに、なんで『三毛の豚』になったんやぁぁ、え?リクエストって、君ら当たったの?」
「うん!……。あ!赤い原チャリだ!そや!思い出した!学校にチクった人!おじさんやろ!そうと違う?」
「ええ?!まりもちゃん!じゃぁ、この人のせいで、校長先生から怒られたんだぁ!」
あらあら。目的がサクサク終わりそう。内心ホクホクしつつ、少女二人にやり込められている、気が弱そうな青年に近づく彼女。
「怒られたのは、悪かったけど……。だけど危ないなぁって、思ったんだよ。もしも猫が飛び出して転んだら、大怪我しちゃうでしょ」
「フン!そんなヘマせえへんもん!」
「ちゃんと気をつけてるし!で!たまこって何?」
「飼ってた猫。そこの猫草が好きで、死んじゃったんだよ。大好きだったから、そっくりなぬいぐるみ創る人がいたフェルト雑誌に、リクエストしたんだけど、何度やっても外れて。自分でやってみたけど……」
絆創膏まみれのゴツい手の中のそれを眺めながら、ボロボロ涙を零す男。
クスクスっクスススッ。少女達。
さっき男が言った言葉を覚えている様子。
「ミケのぶたって、言ってた!まりもちゃん」
「うん!ミケのブタ。聞いたよ!ミルイちゃん」
女の持つちょっとしたイジワルな芽が、ほんのり芽生えているような、二人。
クスクスと嘲笑う、少女達。
昼下がりのミョウガ坂に、騒がしがきている。
お読み頂きありがとうございます(^O^)/ラストに近づいてきましたー。(ΦωΦ)フフフ。